人事労務管理のポイント:賃金所感

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ここ数年「わが社の賃金制度を抜本的に見直したい。」という相談が増えてきている。

具体的な内容は多岐にわたっており、例えば「制度が年功的で、評価によって賃金額にあまり差がつかない。」「このまま定期昇給を続けていくと人件費が相当膨らんでしまう。」「賃金水準が世間相場と比べて低く優秀な人材が採用できない。」といった悩みを抱えてのご相談である。賃金制度には、社員の側から見た公平感や納得感とともに、当然ながら自社の支払い能力からみた合理性や世間相場への対応等も求められてくるが、これらは相反するニーズである場合も多く、それぞれのバランスと優先順位を考慮しなければならないところに難しさがあろう。

このような場合、私はまず、問題点を次の3つのカテゴリーに区分して整理してみることを提案している。

  1. 賃金水準・・同業や世間水準と比べた自社の賃金や人件費の水準
  2. 賃金体系・・基本給や諸手当、賞与や退職金などの体系
  3. 賃金格差・・社内における、年齢や評価、役職や等級等の違いに対する金額的格差

自社の賃金制度の見直しを行おうとする場合は、まずこの3つの要素について、どこにどのような問題があるのかを交通整理することが肝心であり、それをすることで、自ずと自社の基本的な考え方や見直しの方向性が固まってくるものだ。

そうやって検討を進めていくと、上記の3要素に該当しない「本当の課題」が浮上することが多い。というより、ほとんどのケースが賃金制度のみの見直しでは解決しないと言ってよいだろう。例えば、「評価によって賃金にあまり差がつかない」本当の原因が、評価基準の曖昧さや管理者の評価スキルが低いといった人事考課制度と評価者自身の問題であるとか、「優秀な人材が採用できない」のは、結局自社における明確な人材像が描けていないことが主因であるといった具合だ。人事制度の課題が、結果として一番症状の出やすい賃金制度のところに具体的な不具合が現れているのにすぎず、根本原因は別の制度や運用方法に隠れているというわけである。これは、病気の症状と原因の関係に似ていて、頭痛だからといって脳自体の病気ではないのと同じだ。(風邪でも、肩こりでも頭痛は起こる。むしろ脳疾患の可能性がはるかに少ないのだろう。)

従って、制度見直しの際には、たとえ現時点で出現している問題が賃金制度の範疇であっても、本当にそれが賃金制度自体の原因であるかどうか、等級制度や人事考課制度、教育研修などの他の制度や運用面も含めた人事システム全体から今一度検証してみることが肝心である。 我々コンサルタント側としても、ご相談者の心情に寄り添い共感することは大切ではあるが、目先の課題のみに囚われて本質を見失うことのないよう、全体を俯瞰した冷静な見極めを忘れてはいけないと常日頃から心がけている次第である。

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