若手社員の定着と育成が支える企業の成長

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厚生労働省が、9月10日に発表した労働経済動向調査によると、景気の回復傾向が影響し、正社員が「不足」と答えた事業所の割合が2008年2月調査以来の高水準となり、人手不足感が強まっています。また長期的にみても、労働人口が減少していく中で、働き手、特に若手社員を確保しておくことは、事業規模の大小を問わず重要な課題となっています。


一方で、入社後3年以内に辞める若手社員が大卒の場合3割を超えるなど、ミスマッチによって人材定着がうまくできていないところもあります。今後安定的に事業を行っていくうえで、どのように若手社員の定着、育成を図っていけばいいのか考えます。

若手社員の雇用をめぐる課題

「求人募集をしても応募者が集まらない」「「できる人」と思って採用したら、期待はずれだった」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」「会社とトラブルを起こして辞めていく」といった声が聞かれます。
これらのことを解消するためには、どのような点に注意をすればいいのでしょうか。それは、3つの方向性から考えられると思います。まず、1つは、「ミスマッチを起こさない採用をすること」、2つ目は「安心して働ける職場環境を整えること」、3つ目は、人材の調達を採用という入り口だけではなく、人事管理全体からとらえて「人が辞めない仕組みを考えること」、とりわけ「育成に力点をおいた人事制度を構築・運用すること」が重要な取組みとなってきます。

自社とのマッチングを図る採用基本戦略

若手社員の定着を図るには、まず採用の段階でミスマッチを起こさないことが肝心です。
経団連の申し合わせの変更により、2016年度から新規学卒者の面接選考・試験等の選考活動期間の開始が、大学4年次の4月から8月に4ヵ月「後ろ倒し」になります。企業にとっても短期間で採用活動をすることになり、負担が増加することが予想されます。中小企業においては、中途採用が比率としては多いと思いますが、中途採用に関しても、2014年1~3月期の有効求人倍率は1.05倍で、「人が採りにくい」状況に変わりはありません。
このような中では、以前にも増して、新卒、中途ともに採用にあたっては、基本戦略を立てて臨む必要があります。はじめに、「何が、どのくらいできる人が、何人必要なのか」という要員計画を立てることと、「採用した人にはどのような役割を担ってもらうのか」という求める人材像を明確にすることが必要です。前者については、「有能な人」よりも自社にとって「有益な人材」を採用することが肝要です。たとえば「TOEIC900点」を持っている人は確かに有能ではありますが、今回募集する人材要件に必要なのか。よく考える必要があります。
また、後者については、採用活動を通して、会社の思い、入社後の業務内容、必要とされる能力、執務態度などを応募者に具体的に伝えること。これによって、現状起こっているミスマッチの大部分が解消されると考えられます。
採用とは、「自社にふさわしい人材を選別する」という意識で臨む担当者の方もおられますが、実は採用活動とは、応募者に会社が「選ばれている」状況にもあります。応募者が就職を決めるにあたっては、「採用時の会社の対応」が判断基準のひとつとなっています。決して「上から目線」では人は集まりません。面接時は、応募者の人となりを見極める時間であるとともに、会社のことを理解してもらうプレゼンテーションの場でもあるとご理解ください。

「若者を使い捨てにする企業」といわれない人事管理

若手社員の雇用をめぐっては、「ブラック企業」の問題が大きく取り上げられています。「ブラック企業」については、明確な定義はありませんが、厚生労働省も「若者の使い捨てが疑われる企業」への取組みとして、過重労働に関する重点監督を強化しています。
「ブラック企業被害者対策弁護団」によると、ブラック企業の違法行為としては、(1)長時間労働、(2)残業代の不払い、(3)詐欺まがいの契約、(4)管理監督者制度・裁量労働制の拡大、(5)パワーハラスメント、(6)過労うつ、過労死、過労自殺の隠蔽といったことが指摘されています。
企業にとって悩ましいのは、自社では意図的に過重労働を強いたつもりはないのに、SNS等の情報伝達手段によって、「ブラック企業」としての風評を立てられることではないかと思います。学生は職業経験がないため、悪意のある企業に「だまされる」こともあるでしょう。一方、経験のなさゆえに、実際の職場というものがわからずに、「残業がある」というだけで「ブラック」と思ってしまうこともあるようです。とはいえ、企業としては、人材確保のためには、上記で指摘されたような違法行為を行わないのはもちろんのこと、可能な限り透明性を高めて、自社の仕事の仕方についてきちんとした説明と理解を求める努力をすることが必要です。こういった取組みは、若手社員だけではなく会社全体に好影響を与えます。最低限の労働条件を引き上げる努力は、会社全体の生産性の向上に寄与することはいうまでもありません。

人が辞めない仕組みづくり

社員の定着を図るには、まずは「安心して仕事ができる環境」であることが必要です。労務コンプライアンスが守られていることはもちろん、この会社がどういう方向に向かおうとしているのか「経営理念・ビジョンの明示と共有」を図ることが、多様な雇用形態・価値観を持つ社員が混在する今日特に重要となってきています。多様化という点においては、「いつでも」(長時間労働ができる)「どこでも」(転勤ができる)「何でも」(どんな仕事でもできる)といった社員像を標準とすることが、育児・介護等の事情を抱える社員の増加により困難になってきており、今後は「キャリアルートの複線化、多様な働き方の提示」を行うことが避けて通れません。
人材育成については「やる気を高める人事評価と賃金制度」の導入が必要です。社員が成長とともに、その後どのような役割を求められていくのかが明確になっていなければ、採用時における人材要件との連動ができません。人事評価・賃金制度は、給与や賞与を決める仕組みではありますが、同時に育成・能力開発としての側面がなければ、単なる査定になってしまいます。社員の仕事ぶりが再現性のある能力を発揮した行動に結びつかなければ、企業の継続的な成長も望めません。人事評価の仕組みを育成のツールとして活用するためには、(1)対象となる期間の前に、何をどのようにすれば評価されるのかを確認しておく、(2)考課期間中には、進捗を確認し、場合によっては方向修正をする、(3)考課結果をフィードバックし、伸ばすべき強みと、改善すべき点を確認する、ことが必要です。
これらのことを行うのは、上司である管理者の役割です。「モチベーションを高めるコミュニケーション」をとり、「成長を感じる機会提供」を行うことが重要です。

近年、若手社員の定着率の低さをめぐって「ゆとり世代」ゆえの「我慢のなさ」といった世代論で片付けるような論調もあります。その当否はいったん脇に置くとしても、現実として人口が減少していくなかで、今の若者世代が活躍できる状況を作らなければ、これからの日本社会が成り立たなくなります。企業、人事担当者は長期的視点に立って人材定着・育成、そして活用を考えていく必要があります。

参考文献

内海正人『会社で活躍する人が辞めないしくみ』クロスメディア・パブリッシング 2013年
常見陽平「人事担当者はブラック企業問題にどう取り組むか?」『ブラック企業のない社会へ』岩波ブックレット905 2014年
平田美緒『なぜあの会社には使える人が集まるのか』PHPビジネス新書 2014年
福田敦之「採用面接の基本」人材マネジメント 2013年9月

アイさぽーと通信<vol.55>掲載

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