『女性活躍推進』は企業の成長戦略

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

世界経済フォーラム(ダボス会議)が発表した2014年「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は142カ国中104位(G7中最低)となりました。国際的には、経済社会における女性の参画が進んでいる国ほど、競争力、所得(一人当たりのGDP)が上昇する傾向が見られるとされています。また、投資家の投資判断の中では、「長期的な企業価値を高める」として取締役会の女性比率のデータベースが参照されているともいいます。


安倍総理が女性活躍を声高に打ち出しているから、当社としてもちょっと女性活躍推進・・・という形だけ取り組んでいる企業もあるようですが、女性活躍推進やダイバシティは社会政策でも流行でもなく、企業の成長戦略です。企業として推し進めていくべき背景と理由を、今一度確認してまいりましょう。

「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」

「人口ボーナス期・オーナス期」という言葉を聞かれたことはありますか?これは、ハーバード大学のデービッド・ブルームという学者が10年程度前から提唱している学説です。
「人口ボーナス期」とは、生産年齢人口に対し、従属人口(幼年人口と老年人口)が低い局面です。この時期は労働力が豊富で、社会保障費が嵩まず、経済発展しやすい状態です。1970年代日本のような状況がまさにこの時期です。
一方、「人口オーナス期」とは、従属人口が経済発展にとって重荷となった状態を指し、生産年齢人口が急減すると同時に、少子高齢化が進み、社会保障費が増大します。オーナス(onus)は英語で重荷や負担を意味します。オーナス期に突入すると、人件費の安さで世界中から受注して爆発的な経済発展をするようなことはできません。
日本は1960年ごろからボーナス期に突入して1990年代初頭に終了し、現在はオーナス期に入っています。中国・韓国・シンガポールやタイは現在ボーナス期にあたりますが、中国のボーナス期はまもなく終わりオーナス期に突入すると言われています。インドではボーナス期が2040年頃まで続く見通しです。
残念なことに、一つの国に人口ボーナス期はたった一度しか訪れません。なぜなら、経済発展した国では、必ず親が子供に教育投資をします。子どもが高学歴化し、少子化が進み、人件費が上がります。人件費が高くなると世界から仕事を集めることができなくなり、その国のGDPが横ばいになります。日本は非常に急速にその道を辿りました。

人口オーナス期に入って経済成長を維持するには?

人口ボーナス期に経済発展しやすい働き方は、次のようなものでした。
・なるべく男性が働く(重工業の比率が高い。筋肉が多いほうが有利。)
・なるべく長時間働く(早く安く大量に作って勝つ。時間=成果)
・なるべく同じ条件の人を揃える(均一なものを沢山提供するため。労働力は余っ
ているので、転勤・残業・出張で忠誠心を高める→「お前の代わりなんていくら
でもいるんだぞ。」)

一方、人口オーナス期に経済発展しやすい働き方は、次の通りです。
・なるべく男女ともに働く(頭脳労働は男女関係なし。労働力が足りないので使え
る労働力をフル活用する。)
・なるべく短時間で働く(時間当たりの費用が高騰:中国の8倍、インドの9倍。
短時間で成果を出すトレーニングをする。男性も介護で時間制約。)
・なるべく違う条件の人をそろえる(常に違う価値を短サイクルで提供する必要。
育児・介護・難病・障がいなどは労働するうえでの障壁ではないという労働環境
の整備が重要。)
なんといっても、「会社のために24時間すべてを捧げてくれる、若い、男性」は今後さらに減っていきます。そういう属性の社員しか評価されない、モチベーションが保てない企業は、人を確保することが難しくなるでしょう。

このような時代の企業の対策としては、次のものが挙げられます。
1.女性を採用・育成 → 管理職割合や目標数値を明らかにする。
2.出産・育児期を乗り越える継続就業 → 両立できる道筋を示し、準備させる。
3.長時間残業の改革 → 「すべての人材に介護などの時間制約がつく可能性が
ある」という認識を広め、社内好事例を作り、削減を進める。
4.管理職の意識改革とマネジメント手法改革 → 効率のよい働き方を評価する
という意識。(「長時間働いて、残業代がつかなくて、責任が重い」というこ
とではない)新しい管理職像を示す。

2007年に団塊の世代が一斉に定年退職を迎えました。そこから10年後の2017年にはこの方たちが70代に突入します。大介護時代がやってくるのは目に見えています。それまで残された時間はあとたった2年です。現時点でもすでに、介護を理由に退職している約8割が男性管理職の方々です。何度も書きますが、時間制約のある育児や介護や障がいなど様々な条件の人たちの能力が発揮できるような職場を作れた企業は、一番優秀な人たちを集めることができて、その付加価値を金銭にして経済発展していくことができます。女性活躍推進は決して「女性の権利」のためではなく、人口オーナス期真っ只中である今、経済成長のためにはいよいよそうせざるを得ない、逃げられない状況に国も企業もなってしまっているのだということを強調しておきたいと思います。
さて、人口ボーナス期に長時間働くことに慣れてしまった人たちを短時間で働くスタイルに移行させるには、相当意識して意図的にトレーニングしていかねばなりません。トップや管理職の意識改革をし、効率的な働き方を評価する制度を導入し、短時間で成果を出すことにインセンティブを与え、見える化、情報共有、コミュニケーション等、多方面から細かな対策をひとつひとつ諦めずに積み重ねていく以外ありません。ぜひ、小さなプロジェクトからでよいので、決断して開始していただきたいと思います。

子ども・子育て支援新制度(すくすくジャパン!)

政府も本腰を入れて対策を開始しています。待機児童はなかなか解消されないという印象がありますが、実は、政府の対策により待機児童数は4年連続で減少しています。2014年度、2015年度の2年間でさらに約20万人の保育の受け皿が拡大する見込みです。
内閣府では、2015 年4月より「子ども・子育て支援新制度」を導入予定です。政府は、保育ニーズのピークは2017年度と試算し、2019年までに予定していた整備を2年前倒しで実施し、2017年度に待機児童解消を目指すとしています。保育の認可制度を改善し、少人数の保育への公的助成も予定されています。これまで使い勝手の悪かった事業所内保育にも柔軟な配慮がされる予定です。
小学校入学を期に仕事と保育の両立が難しくなっていた「小1の壁」の対策としても、これまでの放課後児童クラブを、「量」「時間」「質」「安心」の4つのポイントで改善し、「放課後子ども総合プラン」として対策予定です。
企業の対策と政府の対策は車の両輪のような関係です。企業は、政府が対策に力を入れている今こそ、女性活躍促進・ダイバシティ・マネジメント対策をしていくチャンスと言えるでしょう。

参考文献

「成長戦略としての女性活躍の推進」経済産業省
「『ホワイト企業』女性が本当に安心して働ける会社」経済産業省
「女性活躍推進のために人事が知っておくべき『子育て支援の大改革』とは」小室淑恵
「人口構造から見るゲームチェンジの必要性」-人口ボーナス期から人口オーナス期へ 小室淑恵
子ども・子育て支援制度(すくすくジャパン!)平成27年4月スタート
子ども・子育て支援新制度 ハンドブック
「人口オーナス」東レ経営研究所「ちょっと教えて!現代のキーワード」
「発展途上国における少子高齢化社会との共存」調査研究報告書 アジア経済研究所 2012年
AEPR「人口変動とアジアのダイナミクス」
「アジアにおける人口動態の変化と経済成長」2009年

アイさぽーと通信<vol.56>掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。